受取手形を手形割引業者に渡して、支払期日前に現金を受け取ることが可能です。
これは資産の売却のようにみえますが、万が一、手形が不渡りになった場合は買い戻しの義務が発生しますのでデッドファイナンスになります。
この手形割引はポピュラーな資金調達方法として挙げられますが、割引による現金化にもメリットとデメリットが存在するので、手形割引の基礎知識を紹介します。
商取引の支払いに用いられる手形とは?
手形には為替手形と約束手形の2種類が存在しますが、現在国内の商取引の決済に主に用いられるのは通称:約手と呼ばれる約束手形で商業手形=約束手形と考えて差し支えないと言えます。
手形は振出人が受取人・手形所持人に対して指定期日に券面記入額の支払いを約束する有価証券で、裏書譲渡(券面の裏に署名捺印)することで手形の債権を第三者に譲渡することが可能です。
電子決済の普及で約束手形の電子化が進み券面の存在する手形取引は減少傾向にあると言われていますが、依然として手形決済は活発に行われており支払期日前に手形割引で資金化する資金調達を行うケースは少なくありません。
支払期日前に手形を現金化する手形割引とは?
既にふれたとおり手形は裏書譲渡が行える有価証券ですので、手形の支払期日前に第三者に譲渡し資金に置き換えることができ譲渡による現金化は「手形割引」と呼ばれます。
一般的には銀行などの金融機関に割引したい手形を持ち込み現金化を行いますが、ノンバンクの貸金業者が手形買取りと称して手形割引サービスを提供しているケースも多数存在します。
支払期限前の手形を現金化する際、銀行や手形買取業者は支払期日まで手形の管理を行うため手形の管理手数料が発生し、手形割引では手形券面から手数料が差し引かれた金額を受け取ることになるため「割引」と呼ばれます。
手形割引の割引率は割引依頼先や割引手形の振出し企業によって異なる
手形割引手数料は利用する金融機関や手形買取業者によって異なり、割引を行う手形の振出し企業や裏書譲渡を行う会社の信用度によっても上下します。
銀行などの金融機関の場合 | 約1.5~5.5% |
手形買取業者の場合 | 約3~20% |
このように手数料の割引率は大きく異なり、大手企業が振出した手形であれば低い割引率、それ以外の中小・零細企業が振出した手形は高めの割引率が設定される傾向にあります。
ひと口に手形割引と言っても割引手形の振出し企業によって手元に残る金額が異なるため、手数料がどの程度かかるのかを割引前に確認しておくことが損をしない手形割引のポイントだと言えます。
手形割引は手形貸付とは異なる?
売掛債権担保融資と呼ばれる金融商品が扱われるようになり注目を集めていますが、有価証券である手形を担保として比較的短期間の融資を受ける手形貸付が存在します。
手形割引は手形を裏書譲渡して資金に置き換えるもので融資を受けるものではありません。
譲渡して資金に置き換えた手形が万一不渡りとなった場合、譲渡で資金調達を行った譲渡人が手形を買い戻す必要があるため手形を担保として融資を受ける手形貸付と混同されがちですが、手形を譲渡し資金に置き換えるのが手形割引で手形を担保に融資を受ける手形貸付とは全く異なる資金調達方法であると言えます。
手形割引で手形の現金化を行う流れとは?
手形割引で支払期日前の手形を資金に置き換え資金調達を行うのには一般的に申込・審査・割引契約の締結の3つのステップを踏む必要があります。
銀行などの金融機関は割引手数料が低く抑えられている反面、割引依頼人の信用を重視した審査を行うため申込から3営業日程の審査期間を経て割引契約の締結となります。
ですが、審査を通過できないケースも存在し、この場合手形割引で資金調達を行うことができません。
銀行で手形割引を行う場合、割引希望人の取引状況にもよりますが、一般的には次に挙げるものの提出を求められます。
- 割引を希望する手形の現物
- 通帳など預金口座が確認できる書類
- 割引希望人の会社の登記簿謄本(全部事項証明書)
- 割引希望人の会社の代表者の本人確認ができる書類
- 割引希望人の会社の印鑑証明書と実印
上記の書類を提出し審査が行われますが場合によっては決算報告書や会社の納税証明の申告書、代表者の収入が確認できる源泉徴収書の提出や担保・保証人の設定を求められるケースや審査を通過できないケースも存在し、この場合手形割引で資金調達を行うことができません。
手形買取業者は割引する手形の振出し元の信用を重視するため、経営状態が悪化した会社が持ち込んだ手形でも振出し元の経営状態に問題がなければ審査を通過し、申込当日や翌日には手形割引で資金調達を行うことができます。
また業者によっては公式サイト・電話やFAXなどから申込手続きを行うだけで手続きが完了するケースも存在しますが、無審査や手続きが簡単な業者ほど割引手数料が高めに設定されています。
手形割引のメリット
手形割引を利用した資金調達は以下のメリットがあります。
- 融資などの方法よりスピーディーに資金調達が行える
- 流動性の低い支払期日前の手形を資金化することでキャッシュフローが健全化する
- 銀行の審査を通過できない場合でも手形割引で資金調達を行える
ノンバンクの手形買取業者は手数料が高め
手形割引のデメリット
メリットが目につく手形割引ですがデメリットも存在します。
- 手形が万一不渡りになった場合、裏書人に対して手形の買い戻し(券面額の支払い)義務が生じる
手形が不渡りになった場合は裏書人が債務者となります。
この場合せっかく手形割引で資金調達してもさらに資金繰りが悪化してしまうリスクがあるため、買い戻し義務の存在は注意が必要です。